食欲の秋、美味しいものが巷に溢れ、夏バテしてぐったりしていたからだも元気になってくると、ついついご飯が進み、食べすぎてしまうのが悩み・・・ではありませんか?
暑くて水ばっかり飲んでいた日々が過ぎて涼しくなると、水分よりも、旨味の濃い、がっつりしたものが食べたくなるものです。
何より、農作物や海産物の収穫期となる秋は、旬の美味しくて栄養価の高い食べ物が、手ごろな値段で店頭に溢れます。うちにいても、テレビ番組や、雑誌の広告、SNSの友人のつぶやきにまで、食欲を刺激する情報が洪水のように次々と押し寄せてきますから、「食べたい誘惑」に抗うのは難しいですね。
食欲をコントロールする脳のしくみ
食欲は脳と深く関係している
美味しいものがたくさん目の前にあれば、食欲旺盛になるのは当然といえば当然です。
しかし、そもそも、美味しそうなものを見ると、必要以上に食欲が沸いてしまうのはなぜなのでしょう?
- お腹がすいていないのに、目の前に美味しそうなものが並ぶと食べたくなってしまう
- お腹が一杯になったのに、美味しいものがやめられず、食べすぎてしまう
この誘惑が、食べすぎ・太りすぎにつながっていきます。
食欲は、生きるために必要な本能的欲求であることは疑うべくもありません。ならば、十分な量を食べたら、食欲が収まりそうなものなのに、秋はどうしてそれを上回る食欲が沸いてくるのでしょう。
食欲のコントロールをしているのは「脳」です。
脳がどんな風に働くのか、そのメカニズムを知ると、
「なぜ秋になると食欲が増すのか」
「なぜ食べすぎてしまうほど、食欲が抑えられなくなってしまうのか」
の理由が、だんだんわかってきます。
食欲中枢のメカニズム
まず、食欲をコントロールしている脳のしくみについて見てみましょう。
脳には、食欲をコントロールする中枢が三つあります。
1, 摂食中枢(空腹中枢)
これは、脳の視床下部というところにあります。血糖値の低下など様々な血液内物質の濃度を敏感に感じ取り、栄養=食べ物が足りていないことを察知すると、
「お腹がすいた。もっと食べろ!」
という命令を出します。
2, 満腹中枢
これも、視床下部にあります。今度は、血液の血糖値の上昇などの変化を察知して、栄養が十分足りてきたと判断すると、
「もうお腹いっぱい。食べるの止め!」
という命令を出します。
空腹と満腹、このふたつの中枢の働きが上手に拮抗することで、栄養不足や食べすぎを防ぎ、ちょうどよい食事量になるよう、食欲をコントロールしているのです。
3, 感覚中枢
では、満腹中枢が「もうお腹いっぱい」と判断しているのに、美味しそうなものを見たり、匂いをかいだりすると、ついまた食べたくなってしまうのはなぜでしょう。
これは、大脳の感覚中枢の働きによって喚起される食欲です。
視覚、嗅覚、聴覚などの五感が、美味しそうなものを感じると、美味しいものを食べた時の幸せな記憶が呼び覚まされ、またあの幸福感に浸りたくなり、食欲のスイッチが入ってしまうのです。
食物が豊富に溢れる秋に食欲が抑えられなくなるのは、感覚中枢がたくさん刺激される影響が大きいといえます。
秋に食欲が増す、脳のもうひとつの摂理
日照時間と食欲の関係
秋になると、急に食欲が増してくる理由は、感覚中枢の刺激のほかに、もうひとつ重要な生物としてのメカニズムがあります。
実は、動物のからだのしくみは、そもそも
“夏よりも秋や冬のほうが、食欲が高まるようにできている”のです。
具体的にいうと、食欲は日照時間と深い関わりがあり、
「日照時間が少なくなると、食欲が高まる」
という性質があります。
これは、東京の日照時間の平均を表したグラフです。秋になると、急激に日照時間が減少しているのがわかります。これに反比例して、食欲は急激に高まっていきます。
セロトニンと満腹中枢の関係
ではなぜ、日照時間が少なくなると食欲が高まるのでしょう。
これもまた、脳のしくみが関係しています。脳は、様々な神経伝達物質を分泌しています。
心のバランスを整える働きをするのは、「セロトニン」という物質です。
“日照時間が減ると、セロトニンの分泌量が減ります”
セロトニンが不足すると、気持ちが不安定になったり、イライラが募ったりして、精神衛生上あまりよろしくない状態に陥ります。
そして、セロトニン不足は
“満腹中枢を麻痺させる働き”
もします。なぜなら、
“糖質、乳製品、肉類をたくさん食べると、セロトニンの分泌量が増える”
からです。からだはお腹いっぱいサインを出さずに、よりたくさん食べさせることで、セロトニンを補おうとするわけですね。
自然の摂理に順応して生まれたしくみ
満腹中枢が麻痺するわけですから、食べすぎて太るのは必須です。
が、実はこの「太る」ことこそが、一番の狙いなのです。
人間も太古の昔は狩猟と採集で食べ物を賄う生活でした。冬の間はどうしても食料が不足して、必要な量が食べられません。そのため、秋にたくさん太って、脂肪という形で冬場の栄養を貯める必要がありました。
現在、一年中食べ物に不自由しなくなりましたが、人間のからだには、厳しい自然の中で生きていた時のメカニズムが残っているのです。
「食欲の秋」は、人もまた冬眠前の熊と同じ、地球の自然の一部だ、という証しのひとつです。
秋に食欲が増しちゃうのは生き残るためだったんだね~。太りたくない人はがんばって自分をコントロールしないといけないね!