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生存放棄症候群/未来に絶望して昏睡状態に陥る子供たち

Written by すずき大和

毎年、夏になると世界の約100都市で開催される、「世界報道写真展」という展覧会があります。日本でも、6月頃から10月頃まで、複数の都市を順番に廻って開催されています。

2018年夏、入賞したある作品がネットで話題になりました。
そこに写っていたのは、2人の難民少女が、チューブに繋がれて病院のベッドに横たわる姿でした。彼女たちは、もう2年半もの間、死んだように眠り続けていました。

ある日突然、身体はどこも悪くないのに、昏睡状態のように眠ってしまう病気・・・

スウェーデンでは、この20年間で2000人を超える患者が発生しています。
未だに解明されない謎の難病です。2017年にイギリスのBBCが放送した番組などをきっかけに、世界にも広く知られるようになりました。



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絶望を見た子供たちが生きることをあきらめた姿

絶望する女の子


未来への希望が断たれた時、子供たちは離脱する

病名は、日本語で『生存放棄症候群』といいます。

英語では、

『Resignation syndrome レジグネーション・シンドローム』

直訳すれば「あきらめ症候群」となります。

その名の通り、子供たちが未来への希望を失い、人生や世の中に絶望した直後に、世界から離脱するかのように発症します。

彼らはほとんどが旧社会主義圏の東ヨーロッパから来た難民の子供です。彼らの家族は、スウェーデンに亡命を望んでいましたが、当局により却下されことを知らされた後、突然にあらゆる活動を止めてしまいました。

回復のカギは安心感

あきらめ症候群を発症している子供たちは、みな迫害や逃亡の過程で、ショッキングな体験をしています。不安定な難民の暮らしに捨て置かれたまま、亡命審査に何年も待たされるケースも多いです。

子供たちは希望が日に日に消失していくストレスにさらされ、最後に決定的な絶望に至っています。

多くの医師や心理学者が、子供たちの回復のためには、

“安心して将来を考えられる環境”

が必要であり、一家に「永住権」が与えられることが一番の治療だと主張してきました。実際、永住権が認められ、または滞在期間が延期になった家族の子供たちの多くは、その後目覚めて回復しています。

しかし、増加する一方の難民に対し、社会が厳しい対応へとシフトしつつあるのも事実です。

難民問題はよその話、あきらめ症候群も遠くの話?

難民


スウェーデンのジレンマ

あきらめ症候群の子供たちが、なぜスウェーデン社会にだけ発祥しているのか、誰もその謎は解明できていません。

人道主義や人権・民主主義といった概念を国際社会で確立してきた西洋社会の中で、スウェーデンは人道と福祉を重んじる政策を国のアイデンティティとして誇ってきた先鞭国です。難民の受け入れは70年代から取り組んできました。

そんな国でさえ、昨今の溢れ続ける難民のすべてを庇護するキャパを失いつつあります。

あきらめ症候群の子供たちの問題は、スウェーデン社会では、人道・人権の問題として、国のアイデンティティが問い直される事例として受け止められています。

患者が眠りについている間は、家族を強制退去させないよう、多くの署名が集められ、メディアも人道的配慮を訴えました。スウェーデン政府は、子供たちが目覚めない間は、家族の国内滞在を認める方針を発表しました。

日本人が損するのはおかしい

日本では、写真展がきっかけで、8月のお盆の時期に「生存放棄症候群」がTwitterのつぶやきワードのランキング上位になりました。しかし、ショッキングな症例が注目されたものの、その背景を問うようなことはなく、マスメディアに取り上げられるはずもなく、秋になってすっかり忘れられていきました。

日本社会では、

「人権はすべての人が等しく持っている」

という価値観が受け入れられていません。

「人権が護られるべき人とそうでない人がいる」

という風潮が一般的で、犯罪被害者や社会的弱者などが権利を求めると、その人が人権を保障される資格に値するか否か、という点があげつらわれ、少しでも非があると、「自業自得」だとバッシングされます。

難民の受け入れは先進国の中で抜きん出て最低です。安倍総理大臣は、人権問題ではなく、労働力の受け入れ問題として捉えている旨を国際社会に返答しています。

日本は、教育や福祉や被災者支援等の予算の割合も同じく最低なので、国民の多くに、

「外国人が、税金で保護されるのはズルい。おかしい。」

と感じる傾向も見られます。

全体主義社会の子供がなりやすい

一方で、

  • 政府が何兆円もの海外援助をばら撒く
  • 公的資金運用で何億円もの損害を出す
  • ずさんな公共事業計画で赤字を累積させる

などの税金の使い方は、メディアも国民も容認しています。

日本は、全体主義を尊ぶ教育が進んでおり、若者を中心に、個人より「みんな」「集団」「国」のための選択を支持する考えが強くなっています。権力の批判がはばかられ、周囲に迷惑をかける個人の行為が糾弾されるのは、全体主義社会の特徴のひとつです。

スウェーデンのあきらめ症候群の研究によると、患者の中の多くが、全体主義社会で育った子供たちである、という統計が報告されています。

“社会から見捨てられる状況が、子供が自分の必要性を否定する考えにつながる”

という説も出ています。

福士予算が減り、非正規雇用化が進む日本社会、あきらめ症候群はいずれ関係ない病気ではなくなるかもしれません。

まさケロンのひとこと

相手がどういう立場だろうと尊敬し合ってさ、みんなが活躍してる社会にしたいね~。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。