青々とした大きなさやに入った
ソラマメ
が、八百屋さんの店頭にたくさん並ぶ季節になりました。
人類最古の作物のひとつであったソラマメは、北アフリカから西アジアにかけての地域が原産ではないかと言われており、古代の遺跡からも栽培記録やソラマメの化石が見つかっています。
今も、地中海地方や中東では準主食として日常的に食べられる、まさに
おふくろの味となっている食材です。
植物性たんぱく質と炭水化物の他、豊富なミネラルと食物繊維を含むソラマメは、まさにバランス栄養食品です。
大昔の人も、経験でその栄養価の高さを知っていたので、広く栽培され、食べられてきたのでしょう。
一方で、古代ギリシャやローマの時代から、ソラマメを食べることを禁止したり、死者の食べ物として忌避されたことも、歴史の中で何回かありました。
ピタゴラスとソラマメのはなし
戒律好きの変な哲学者の変なタブー
三平方の定理
で有名な、古代ギリシャのピタゴラスは、高名な哲学者であり数学者でしたが、現代の私たちから見ると、あまり論理的とは思えないような戒律を周囲に押し付けていた記録もたくさん残っています。
菜食主義者で、断食が脳を活性化させ体も健康に保つと奨励するような健康オタクの面がありましたが、栄養豊富なソラマメに関しては、弟子たちに食べることを禁じていました。
彼はソラマメの中空の茎が冥界と地上を結んでおり、豆には死者の魂が入っていると考えていました。
豆畑に入るくらいなら死んだ方がまし
ピタゴラスのソラマメ嫌いがどれくらい物凄かったかというと、その死に際の逸話が有名です。
彼の死についてはいくつか説がありますが、
という話が残っています。
ソラマメ中毒って知っていますか?
ソラマメは死者に捧げる不吉な豆
古の昔、人間が移動型狩猟生活から農耕を始めて定住するようになったばかりの頃から、ソラマメは食料とされていました。
にも関わらず、古代文明国家では、ソラマメは死者の魂が宿る不吉な豆とされてしまいます。
ピタゴラスの提唱した説もそういう風習に由来したものと推察されます。
エジプトでは神官が忌避したのに伴い、一般庶民もソラマメを食べなくなったそうです。
ギリシャやローマでは死者の供物にされ、ソラマメは葬儀の時に食べるものになりました。
日常食としての食習慣が復活している現在でも、イタリアではキリスト教の記念日
に、ソラマメの形のお菓子を作って食べる習慣が残っています。
X染色体の異変がもとで溶血性貧血を起こす原因食材
なぜソラマメがそんな不吉なシンボルになってしまったのでしょうか。
という説も一部に見られますが、少なくともナイルのたまものエジプトでは、黒は肥沃な土の色として縁起のいいものだったので、そこが原因というのはちょっと違う気がします。
実は、日本人にはほとんど見られないのですが、古代地中海沿岸の地域では、染色体異常が原因でソラマメ中毒になる男性が時々いたのです。
ソラマメを食べたり花粉を吸いこんだりすると、溶血性貧血を起こしてしまう遺伝病です。
溶血性貧血とは、自分で自分の血の中の赤血球を破壊してしまう病気です。
症状がひどい人は死んでしまうこともありました。
食べても平気な人と発病する人がいることで、呪術的な迷信に繋がっていったものと思われます。
ピタゴラスがソラマメ畑の中にも入れなかったのは、彼もこのソラマメ中毒体質の家系だったからではないか、という説を唱えている人もたくさんいます。
死者の魂説を唱えたのは、自分を苦しめるものへの憎さのあまり、科学的な論理より呪術思考へ傾いてしまったのかもしれません。
もしかしたら、今でも茹でた時のあの臭いがダメな人だったら、
は、さもありなん!
などと言われそうです。
人類史と共に人々の食を支えてきた栽培種なのに、ソラマメちょっと可哀そう・・・
そら豆中毒なんてあってんなぁ~
でも、栄養価高いし、ビールのお供に最高な食べ物やと思うで!