2015年の七夕は、梅雨の真っ最中でした。
日本全国、北海道を除いてほとんどの空で星が見えない夜となりました。
しかし、この日の天気予報のニュースは明るい話題で賑わっていました。
2014年に打ち上げられた最新の気象衛星「ひまわり8号」の運用が、いよいよこの日から開始されたのです。
日本の気象衛星の歴史
静止気象観測衛星ひまわり8号に萌える
ひまわり8号になると、今までより観測の性能が大幅にアップするそうで、台風の勢力や進路の予報精度の向上などが期待されるとか・・・。
難しいことは素人にはよくわかりませんが、天気予報の時によく見る上空から撮影した雲の写真が、世界初のカラー画像となり、解像度も格段に良くなり、また、撮影の間隔は今までの12倍になったそうです。
これまでコマ送りのように動いていた雲の流れの動きを見せていた映像が、滑らかに流れて見えるようになっていました。
雲と噴火の噴煙の流れの区別もはっきりわかるようになり、口永良部島の噴火を捉えた動画が、あちこちのニュースで映し出されていました。
これまでも何代も観測衛星の世代交代は行われてきましたが、こんなにニュースに大きく取り上げられることはありませんでした。
今回の技術革新は、よほど画期的なことなのでしょう。もう一日中、報道は“ひまわり萌え”していました。
日本の気象衛星のはじまり
日本で気象衛星を打ち上げる計画が始まったきっかけは、1959年に起きた「伊勢湾台風」でした。
この台風は、死者・行方不明者5,098名、負傷者38,921名に及んだ未曾有の大災害を引き起こしました。
これを機に、台風の事前観測と予報をより正確に行うための技術革新を目指す計画が立てられます。
まず、1964年に富士山の気象観測レーダーが設置されました。
そして、1977年には最初の気象観測衛星「ひまわり」が打ち上げられました。
以後、老朽化の度に代を変えながら、いくつもの気象観測衛星が、長年にわたって日本の天気予報を支えてきました。
ひまわりは、世界気候計画(WCB)という全地球規模での気象現象についてデータを総括・管理するシステムに参加しています。
東経140度付近の観測を受け持つ役目を担っており、近隣諸国にもそのデータは利用されています。
ひまわりは、アジアの天気予報をも支えてきました。
ひまわりの危機
次世代型の気象衛星は「みらい1号」になるはずだった!?
そんな日本の誇る気象衛星ひまわりですが、8号に至るまで、スムーズに進歩し続けてきたわけではありませんでした。
初代のひまわりは8号よりもだいぶ小さく、太陽電池を貼りこんだ円筒の外形をしていました。
この型のシリーズ(GMSシリーズ)は、マイナーチェンジと性能アップを繰り返しながら、5号までいきました。
そしてこの型の時代は一度終わります。
後継機として、MTSAT-1という新たな型の衛星を打ち上げることにしました。
名前も、「ひまわり6号」ではなく、新たに「みらい1号」と名付けられました。
が、それまで順調に打ち上げ成功してきた気象衛星でしたが、1999年11月、みらい1号を乗せたH-Ⅱロケットの打ち上げに失敗し、ひまわり後継機は活躍の場がないまま空の藻屑と消えてしまったのです。
これを機に、運が一気に転げ落ちていくように、事態は悪い方に悪い方に進みました。
2年後に再開発したMTSA-1Rの輸出許可手続きに不備があり、2003年春の打ち上げ予定が秋まで延期されることになります。
このため、前任のひまわり5号の引退に後継機の打ち上げが間に合わず、やむなくアメリカの気象衛星GOES-9をレンタルして使うことで急場をしのぐことになりました。
しかし、その間に、衛星を製造していたアメリカの会社が倒産してしまいます。
せめてMTSA-1Rの製造だけでも続行を・・・と申し立てましたが、連邦裁判所に却下されます。
更に更に、次の打ち上げに使う予定のH2Aロケットが打ち上げに失敗して爆破しました。
結局、2003年中の打ち上げは断念せざるを得なくなります。
「ひまわり」は開運のラッキーネーム
そんな不運も重なり、天気予報のニュースに流れる気象衛星の映像は、一時期ちょっと解像度が落ちたりもしました。
しかし、関係各所の頑張りで、2005年2月、H-ⅡAロケット7号機によってようやく新たなMTSA-1R型気象観測衛星が打ち上げに成功します。
そして3月には無事赤道上空の静止軌道に乗りました。
国土交通省は、広く国民に親しまれ、気象観測・予報技術が好調に進歩していた「あの頃を再び」という思いも込めて、この衛星を「ひまわり6号」と命名しました。
名前の開運効果かどうかはわかりませんが、翌2006年には、国産衛星となったMTSA-2型の気象観測衛星「ひまわり7号」の打ち上げにも成功します。
そして、2014年、更に改良を重ねた最新のHimawari型気象衛星の打ち上げに成功、その後の試験運用の問題点もなく、“ひまわり8号”として、無事7号から気象観測衛星の役目を引き継ぐことができました。
8号機は愛称とコード名が一致した最初の衛星です。
「ひまわり」は、今や日本国民の夢と希望を託された大事な空のかなたの象徴なんだなぁ、ということが、今回の報道フィーバーっぷりを見てよくわかりました。
復活した「ひまわりからの映像」
天気予報の決まり文句
気象観測衛星の役割をGOES-9に切り替えた時、それまで天気予報の際、上空からの雲を撮影した画像を見る際には
「ひまわりからの映像です」
といっていたのが、
「気象衛星からの映像です」
へと変わりました。
一応、GOES-9にも「パシフィックゴーズ」という愛称が付けられたのですが、天気予報でそう呼んでもらえることはなく、一般化しませんでした。
再びひまわり6号が気象衛星を引き継いだ後、この「気象衛星からの映像です」の決まり文句は、ほとんどの天気予報で変わりませんでした。
が、今回の“ひまわり萌え”によって、再び「ひまわりからの映像です」という言葉が気象予報士さんらの口から出ているのを聞きました。
地味なところですが、ちょっと嬉しい気がします。
ほんものの「ひまわりからの映像」
ニュースでは、7号と8号の雲の映像を並べて映して比べていました。
雲の状態や動きは確かにかなりくっきり細かく把握できるようになっていましたが、
と思った人はいませんでしたか?
確かに8号のほうが、地図の写りは暗く見えています。
あの7号の画像の加工は、ひまわりが行っているのではなく、画像を受信した気象庁が行い、その気象庁が作った画像を再びひまわりが衛星中継で配信していたのです。
7号の画像だと、加工を施さないと地図がはっきり見えなかったためです。
8号からの画像は、加工しなくても、日本列島の形が判別できるようになったわけです。
そのため、実は8号には今まであった気象庁から送られてくる画像を配信する通信衛星機能が付いていません。
本当に観測衛星としての役割に特化してあるのです。
その代り、PCやスマホ、タブレットから、いつでも最新のひまわりの画像を見ることができるようになりました。
赤道上から地球をまるごと映している映像と、日本列島の部分のアップと、前日の24時間の動きを追った動画なども見られます。
台風発生時は台風の動きを追った動画もあり、なかなかの見ものでした。
世界初の、加工なしのカラーの地球の映像をあなたもぜひご覧ください。
一瞬、はるか上空のひまわりの視点で、地球を見つめる気持ちになれそうです。
「ひまわり」って、なんだかポジティブになれるいい響きだよね~。