人間は、毎日毎日目には見えませんが、いろいろな「電磁波」をからだに受けています。
携帯電話やGPS、TVなど、家の外から情報を運んでくる電波だけでなく、リモコンで操作する電化製品はトイレの中まで溢れ、イマドキのインターネットはWi-Fi接続が一般的です。
電波を飛ばして操作や感知をする機能はなくても、電化製品は多かれ少なかれ、電磁波を周囲に発するので、TV、エアコン、掃除機、ドライヤー・・・蛍光灯でさえ、近くに寄れば電磁波を浴びます。
「それって、なんかからだに悪いことないの?」
という疑問は、昔から度々聞かれ、科学者などがいろいろ弁明や解説をしてきました。
携帯電話の電磁波が脳を破壊する?
携帯電話の電磁波は、マイクロ波
特に、頭にくっつけて使用することが多い「携帯電話の電磁波」が、脳や心臓に悪影響を与えないか心配する人はたくさんいます。
「電磁波」とは、空間に存在している電気と磁気の力に影響されて、光と同じ速さで伝わっていく目に見えない波のことです。30Hzから3THzの間の周波数を持つ電磁波を「電波」といいます。
電波は波長域によって更に細かく分類されています。携帯電話から出ている電磁波は、電子レンジで発生するのと同じ「マイクロ波」です。
電子レンジといえば、食品に電磁波をあてることで加熱調理する機械です。その電磁波と同じものが携帯電話から出ていると聞くと、
「脳が加熱調理されてしまうんじゃないの?」
と、心配する人もいるかもしれません。
電磁波の影響で心配なのは「非熱作用」
電子レンジで使用する電磁波の出力は、家庭用で500~600Wですが、携帯電は0.6~0.8Wに過ぎず、千分の一程度です。これくらいだと、とても人間の細胞を加熱してしまうほどの力にはなりませんから、携帯電話による熱作用というのは、ほとんど問題にしなくていいものだそうです。
電磁波の作用の中で、問題が度々懸念されているのは、熱作用以外のいろいろな影響、「非熱作用」と呼ばれる効果についてです。
- 遺伝子損傷
- がんの発症
- 頭痛
- 睡眠障害
- 学習能力の低下
などを指摘する報告もこれまでいくつか出ています。疫学的な実験分析もあれば、怪しいデマも交じっており、はっきりと電磁波は悪い!といい切れるだけの論拠は、まだ確立されてはいません。
結局は、悪影響が目に見えるようになるまでわからない?
動物実験による関係の証明
2016年、米国保健福祉省が統率する毒性物質の検査・試験・分類等を行うプロジェクト「国家毒性プログラム(NTP)」による、「携帯電話の電磁波とがんの関係を調べた研究結果」 が発表されました。
NTPの2年余に及んだ今回の実験は、胎児の時から死ぬまでの寿命全ての期間、携帯電話のものと同じ電磁波を照射し続けたラットと、照射しなかったラットを比べたものです。結果、照射を受けたオスのラットに、脳や心臓のガンの発生が見られました。
これは、2011年にWHOの国際がん研究機関(IARC)が発表した疫学研究の結果と類似したものだそうです。
これ以前にも、1999年にマイクロ波を2時間ラットの頭に照射する実験で、脳細胞のDNAの一部の鎖が切断される現象が観測されていましたが、生涯に渡ってマイクロ波を受け続けることの影響として、実際のガンの発生率を観測した実験はこれが初めてです。
これにより、携帯電話の電磁波はがんの発生と関係していることが証明されたといえます。
携帯電話の使用=がんになる、ということではない
しかし、この結果をもってすぐに、「携帯電話の使用は危険なので規制しなければ」というふうにはなりません。
今回の実験はラットを対象にしたものであり、人間にはどれくらいの影響があるかが立証されたわけではありません。疫学的な立証をするためには、人間で、人生の長期にわたって実験をしないといけないわけですが、そんな人体実験は、人道上の問題からも実行するのは難しいことなのです。
実験のラットは、毎日9時間、2年間に渡り電磁波を浴び続けましたが、人間が毎日9時間2年以上続けて電話することはないでしょう。ラットのがんの発生率は1~6%でした。ラットより免疫作用が強く、実際の照射量がもっと少ない人間の影響は、さらにもっとずっと小さいことは予想されます。
電磁波が、何らかの悪い影響を持つことは確かですが、携帯電話の使用が、人間の免疫作用を超える影響に及ぶとは、現在の所考えられない、と、専門家は判断しています。
本当に問題ないかどうかはまだわからない
「今使っているくらいの量なら健康上問題ないから、気にしなくていいよ」
という判断で、利便性のためにからだに悪いとわかっているものでも許容している、という点では、放射能や農薬などの化学物質との付き合い方と同じといえます。
しかし、「影響ないと考えられる」といわれていたものでも、長期間使っていることで、環境や人体に少しずつ作用が蓄積された結果、後に当初は予測できなかった大きな影響が判明した例は、過去にいくつもあります。
もしかしたら、電磁波の気付かない重大な悪影響が、何年か後に突然世界中で噴き出すことも、完全にないとはいいきれません。
- 「不安におびえて過剰に警戒して利便性を捨てるのは愚か」と思うか、
- 「命に関わることは用心にこしたことはない」と思うか、
選択は人それぞれですが、携帯電話の電波ってそういうものみたいですよ、一応。
利便性を捨てちゃうのはもったいないと思うんだ〜。電波の「質」を変えるとか、もしくは人間自体を電波から守る何かを見つけるとか、とにかく前に進んでいきたいね。