年の瀬押し迫ってくると、スーパーの食品売り場の冷蔵ケースが、お節料理用の食材で埋め尽くされていきます。年越しそば用の乾麺やお餅も、ワゴンなどに山積みになります。
昭和50年代くらいまでは、お正月のお餅は、近くのお米屋さんなどに頼んで届けてもらう家がたくさんありました。鏡餅用の二段重ねのまるい大きな餅も届けられました。
そのまま空気にさらされて飾って置かれる鏡餅は、鏡開きの頃には乾燥して硬くなってしまいます。昔は、ひびが入ったカチカチの餅を木槌などで叩き割って砕いて食べました。
今スーパーに積まれている鏡餅は、ほとんどが真空パックになっています。カビませんが、カチカチに硬くもならず、ひびも入りません。乾燥していないと割ることはできないので、食べる時は包丁で切り分けている人が多いようです。
でも、鏡餅って本当は包丁で切っちゃいけないものらしいです。
鏡開きのルーツ
年神様と松の内
日本では、古来より、大晦日には先祖の霊が「年神様」となって各家々にやってきて、お正月明けと共に家族に一年の健康と幸福を授けてくれる、という信仰がありました。
年神様が家にいる間を「松の内」といいます。年神様へお供えする鏡餅は、松の内の間、神様が宿っている「依り代(よりしろ)」となります。
松の内が明け、年神様が帰ってしまった後、神様の霊力が宿った餅を割って食べることで、一年間無病息災に過ごせる、といわれています。
新年から「割る」という言葉は縁起が悪いので、「開く」を使って「鏡開き」といいました。
鏡開きは仕事始めの儀式
松の内は基本的に仕事もお休みでした。鏡開きの日は、仕事始めの日でもありました。
仕事始めのことを
- 商家では「蔵開き(くらびらき)」
- 農家では「鍬初め(くわはじめ)」
- 武家では「具足開き(ぐそくびらき)」 ※具足は甲冑のこと
と呼んでいました。
年神様への供物の餅を、仕事始めに開いて食べるという習慣は、江戸時代に武家で始まったものです。武家では餅を甲冑の前に備えたので「具足餅」と呼んでいました。仕事始めの朝は具足餅を開いて雑煮にして食べるのが習わしだったので、「具足開き」です。
これがやがて庶民にまで広がりました。鏡餅という名前は、平たい円形の餅が神事に使う銅製の鏡の形に見えたので、「餅鏡」と呼ばれ、いつの間にかひっくり返ったものです。
餅に刃物は切腹を連想する
武家では、神様が宿っていた餅に刃物を充てるのは、切腹を連想させて縁起が悪い、ということで、手で割ったり、木槌で叩いて砕いたりして食べました。
鏡開きの習慣が広まる際、そのしきたりも受け継がれ、今も
「鏡餅は包丁で切ってはいけない」
といわれています。
真空パックのお餅はどうやって食べればいい?
切らずに真空パック鏡餅を食べる方法
では、冒頭に話を戻して、昨今の真空パック鏡餅の食べ方についてです。
「包丁使ってはいけない」
といわれると、はて、どうやって食べればいいのでしょうか?
対策は3つです。
1, 電子レンジで柔らかくして成型する
小さめのものなら、真空パックから出した鏡餅を耐熱のボウルなどに入れて、電子レンジにかけましょう。
加熱すると、部分的に突然ぶわーっと膨らんでくるので、中心まで全体に膨らんだところで止めて取り出すと、つきたてのお餅のような状態になっています。火傷しないように手水をつけながら、食べやすい大きさにちぎって丸めて下さい。
大きくて、レンジで加熱すると最後は天井にくっつきそうなものは、一部分だけ膨らんだところで取り出し、そこだけちぎって丸め、レンジにいれて、また一部分だけ膨らませてちぎって丸めてレンジにいれて・・・を繰り返してだんだん小さくしていきましょう。
お湯でゆでても柔らかくできますが、表面がちょっと溶けてしまうので、成型する前に全体をこねて柔らかさとべタベタ加減を均一にしましょう。
2, 鏡餅型の入れ物に個別包装のお餅がたくさん入っているタイプのものを買う
プラスチックケースをひっくり返して中を開けると、真空バック個別包装の切り餅またはまる餅が、たくさん詰まっているやつ、どこでもだいたい売っています。
3, 気にせず、包丁を使う
「21世紀の現代、侍はいないし、誰も切腹することはないので、刃物は不吉じゃない」
と、割り切って、普通に包丁で切り分けても、神様は罰あてないと思います。
カビちゃったら、迷わず包丁で削り取ろう
ひびの入ったカチカチ餅は、大抵はカビも生えていました。カビを削り落そうとすると、どうしても刃物が必要になるため、昔の人は砕いた鏡餅はカビごと一緒に食べてしまっていました。
今でも、お年寄りに聞くと
「餅のカビは食べても平気」
と、いいます。
が、それは科学的に根拠のある話ではありません。カビには、食べるとからだによくない成分が全くないものはほとんどありません。
今でもお米屋さんに頼む人や、幼稚園の行事でお餅つきしてお供え作る人もいるでしょう。真空パックも空気が漏れて中でカビる場合があります。
もし、餅がカビてしまったら、包丁でカビを削り取ってから食べましょう。カビには目に見えない根っこがあるので、表面から2~3㎝くらい深めに削ってください。
何にしても、ちょっと面倒くさいかもしれませんが、縁起物ですから、捨てたり放置したりせず、鏡餅、ぜひちゃんと食べてくださいね。
餅のカビをばくばく食べても長生きしてるじいちゃんばあちゃんのたくましさに圧倒されてる。