ようやく桜の開花が始まりました。
40日ほどかけて南から次々と満開を迎えていくのでしょう。
日本の名所といわれる場所の桜の8割はソメイヨシノです。
接ぎ木・挿し木で増えてきた木なので、全国ほぼすべての木が同じ遺伝子を持つクローンです。
人が喜ぶ桜の名所を作るため、人工的に優れた単一種だけを密集して植栽してきた結果、実はクローンならではの苦労もたくさん背負っている花なのです。
ソメイヨシノにまつわるいろいろな誤解
不稔性じゃないけれど、人の手によってしか増やせない
ソメイヨシノはもともと不稔性(種ができない)の桜というわけではありません。
自然の摂理では、動植物はより強い遺伝子同志が交配し、生き残った強いものが繁栄するように出来ています。
全部クローンの桜林では受粉しにくく、しても良い品種が繁栄しません。
近くに別の桜があると、たくさん実を付けることもあります。
が、ソメイヨシノの良い性質を好んで名所を作ってきた人間にとっては、他の種と交配されるのは困ります。
高品質の桜を保つには、クローンで増やすしかないのです。
寿命60年説って本当?
ソメイヨシノは育つのが早く、若木のうちから花を付けます。
その分、土の養分も大量に吸い上げます。
ソメイヨシノだけを群生させている名所では、土が痩せやすく、60年もたつと土地そのものがカスカスになってきます。
落葉や雑草も綺麗に掃除されるので、ますます土は痩せ、益虫が育つ環境も貧相です。
また、花見客が根元をたくさん踏み固めるので、根の痛みも早くなります。
一方、そういう悪条件を改善するよう熱心に樹勢回復に取り組んでいる弘前では、多くの桜の寿命が延びました。
中には樹齢100年を超えるものもあります。
適切な管理ができれば、ソメイヨシノはもっと長生きするのです。
桜切るバカ、梅切らぬバカ・・・桜の枝は切っちゃいけない?
これは本来、桜の木は傷みやすいので、剪定するときはいい加減な切り方をするな!
という教訓なのですが、造園業者の中にも
と勘違いしている人がいます。
しかし、ただでさえ人工的に密集して植えられた名所では、枝葉が伸び伸びとできず、根本の日当たりも悪いです。
根も傷んで害虫や病気の発生も広がりやすい環境で、余計な枝葉の剪定も放置すると、ますます全部の木が痛みます。
思い出の大事な桜の本当の延命とは
幹の中心が空洞になった老木は切らないとダメ?
木の特性として、幹の中心分は時間と共に腐朽するものですが、木が元気に生きるのに、それは全然影響しません。
幹の中が空洞になっているのに、立派に葉も花もつけている樹木は多いです。
しかし、大木では、中が空洞になると台風で倒れやすくなるので、街路樹や公園の木なら、空洞が大きく広がったら切り倒しの合図です。
戦時中にたくさん植えられたソメイヨシノの多くが各地でこの合図を発しています。
ですが、日本人の心情として、まだ花を咲かせている大木の桜を切るに忍びないものがあります。
保全のためには空洞を埋める外科手術を施すことになるのですが、前述の通り、それは木の延命には全然影響しません。
桜並木全体の延命を願うなら、老木の外科手術に使う大金を土壌の保善や病気予防に回すほうが効果的かもしれないのです。
老木のあとに若木を植えていく名所保存の難しさ
公園全体の桜の数を維持しようと、倒れた老木の跡にまた桜を植えたり、倒れる前に隣接して若木を植栽する所も多いです。
が、長期間ソメイヨシノを群生させてきた土地は若木が育つだけの養分がなく、枯れる場合も少なくありません。
また、倒れるくらいの老木は根や幹に病気があることが多く、抵抗力の弱い若木は簡単に感染します。
同じ場所にソメイヨシノを植え続けようとすると、土を替え、肥料も大量に投入するなど、相当の手間が必要です。
桜の命をつなぐとは
ソメイヨシノは全てクローンです。
みんなひとつの命、とも言えます。
老木の桜の命を救いたいのならば、弱っている木に支えをして延命させて、周囲に病気が広がるリスクを冒すより、早く伐採して若木を別の場所で育てることが、正しい命のつなぎ方ではないか、という専門家もいます。
日本古来の山桜は、たくさんの種が共生する生態系の中のひとつとして生きていました。
寿命も長く、環境も壊しません。
明治以降、ソメイヨシノが人工的に植栽され、見栄えのいい並木や花見のしやすい名所を作り続けました。
生態系も環境も壊し、自らの命も短命
にしながら、人々の目を楽しませてくれているソメイヨシノ・・・
日本人の美の探求心が生んだちょっと哀れな一面かもしれません。
ソメイヨシノがこんな過酷な環境と戦ってるんなんて知らんかったわ・・・
がんばれ!!