「ゆとりですがなにか」というTVドラマがありました。上の世代から「ゆとり世代」と呼ばれる若者たちが社会人として生きていく中での悲喜こもごもが、コメディタッチで描かれた、ユルい社会派ドラマです。
日本の子どもの教育方針が、高度経済成長の頃までの知識詰め込み型から、論理能力や発想力を磨くことに重点を移されたことを俗に
「ゆとり教育」
と呼びます。
特に1987~2003年生まれの人を「ゆとり世代」と呼ぶことが多いですが、上の世代より学習量が減っていった世代は、実はバブルよりずっと前からいます。
会社で、後輩とうまくコミュニケーションとれなくて、
「ゆとり世代とのギャップを感じるよなぁ」
なんてボヤいている人も、さらにその先輩たちからは
「おまえらだってゆとり世代でしょうが」
なんて思われているかもしれません。
ゆとり教育を受けた世代はゆとり世代だけじゃない
学習量の削減は長期間、段階的に進んだ
私は、中学の時から本格的に学習量の削減が進んでいった、一番初めのゆとり教育体験世代です。
小学生の時、学年が上がるにつれて、教科書は、
- 厚く重く、
- 字は小さく、
- 挿絵は少なく
- 色使いは地味に
なっていくものでした。
が、中学2年以降は、それが逆転し、
- 全体に薄く軽く、
- 字も版サイズもどんどん大きく、
- カラフルで絵がいっぱいに
なっていきました。
中1と高3の教科書を比べると、「辞書と絵本か!!」と思うくらいの違いです。それは当時の多感な年齢の子どもには衝撃的なことでした。
そのため、1966年~1978年生まれを
「最初のゆとり世代」
と捉える専門家も多いです。
2002年、2003年の改訂が注目されるわけ
2002年にも小中学校の学習指導要領が、2003年には高校が、やはり内容削減方向で改訂されています。それまでの削減と比べ、この時ばかりが大量に削減されたわけではありません。
が、世間では、この2002年の改訂から、内容削減方針が終了した2012年までの間に小中学教育を受けた世代だけを特に取り上げ、「ゆとり世代」と呼んでいます。
なぜこの世代だけが大きくクローズアップされたのかというと、2002年の改訂時に、算数の指導要領に「円周率は目的に応じて3を用いて処理」という記述が加わったことが、
「円周率は3.14じゃなくて3になった」
という認識で広く世間で話題にされたためです。
それより上の世代にとって、このことは相当に衝撃的でした。日本の子どもの学力が世界と比べて下がってきた傾向もあったため、
「この世代は難しいことは教わらないバカ世代」
との思い込みが流布され、半ば見下す意味をこめて
『ゆとり世代』
という言葉が使われるようになりました。そして、
『円周率は3』
はゆとり世代の代名詞のようになりました。
ゆとり世代についての誤解
「円周率は3」で習った人はひとりもいない
しかし、実際は、ゆとり教育でも円周率は3.14だったことは、今では多くの人が知っています。未だに
「ゆとり世代は円周率3なんでしょ」
と思っていた人のために、簡単に説明すると、
- 授業中に計算機を使ってもよくなった
- 円周率を教える段階で、小数点以下2つまでの掛け算のやり方は教わらない
- だから、計算機を使えない場合は、3.14の掛け算を習う前の子は3で計算してもいい
ということで、「目的に応じて3を用いて処理」と書かれたのです。
子どもたちは電卓を使ってちゃんと3.14で計算していました。が、手計算では3で大ざっぱな数字を出すように使い分けていたに過ぎません。
誤解が広まった原因は、日能研という塾の宣伝ポスターが、わざとショッキングなキャッチコピーを使ったためです。
「ウッソー!?円の面積を求める公式 半径×半径×3!?」
という文言が独り歩きして、人々の誤解を生みました。
ゆとり世代の学習能力は低くない
また、ゆとり世代は極端に学力が劣るバカ世代というのも誤解です。
子どもの学力の世界比較の例として、OECDが世界の国々の15才の子どもを対象に行っている学力調査の数値がよくあげられます。
長年の学習量の削減の影響で、2000年代の前半は、日本の子どもの調査順位がどんどん下降していったのは本当です。
しかし、2002年の改訂の影響が出始める2006年の調査から、日本の子どもの順位はむしろ上がっていきました。小中学校で完全にゆとり教育を受けたはずの2012年の15歳の結果は、再び2000年の水準まで回復しています。
ゆとり世代だけ特別なわけじゃない
若い世代を「ゆとり世代はこれだから…」とひとくくりに語る人は、30~40代の人が多いです。
50代以上の高齢者は、あまりその言葉を使いません。上の人たちから見たら、「新人類」(1960年代生まれはこう呼ばれました)もゆとり世代も、みんな「近頃の若いもの」です。
時代が変われば、受けた教育も育った環境も異なってきます。気になる部分も微妙に違ってくるでしょう。自分たちの世代では当たり前のことが、下の世代では通じないように、下の世代が上の世代の「無頓着さ」にイラついていることだってあります。それは、いつの時代も同じように繰り返していることなのです。
みんな、自分たちの至らなさは棚に上げて、自分の気付いている所に気付かない人たちにイラっとします。それが人間です。しかし、分断し、違いの理由づけに酔っているだけでは、自分も成長しないし、いい仕事もできません。
そろそろやたらに「ゆとり世代」のせいにするの止めませんか。
ジェネレーションギャップはなくならないよね。お互いの個性を認め合って、仲良くやりましょ!