未来創造

コミュニケーションロボット/寄り添いロボットと会話する未来

Written by すずき大和

自動車好きの人、経済産業界の人は気になる、年に一度の東京モーターショー。2015年のモーターショー開催前、トヨタが手の平サイズのコミュニケーションロボット

「KIROBO MINI(キロボ・ミニ)」

を世界で初めて出展する、というニュースが流れていました。

コミュニケーションロボットとは、一般に、

「日常生活において、人間とコミュニケーションすることにより、話し相手や情報提供などのサービスを行うロボットのこと」

と、定義付けられています。

有名なところでは、ソフトバンクが開発した「Pepper(ペッパー)」がよく知られています。

他にも機械工業系企業から玩具メーカーまで、今や様々なコミュニケーションロボットが開発されています。彼らはアトラクション会場や企業内の接客だけでなく、家庭内や介護の場ですでに活躍を始めています。



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きぼうロボットプロジェクト「KIROBO」

人と会話する任務で宇宙へ飛び立ったロボット

「KIROBO」は、電通、東京大学先端科学技術研究センター、ロボ・ガレージ、トヨタの4社が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力して開発した、身長34cm、重量1000gの“宇宙飛行士ロボット”でした。

といっても、彼の任務は宇宙空間での作業を人に成り代わって行うようなものではなく、ロボットと人類が共生する未来への希望を託された「会話実験」をすることでした。

2013年12月に国際宇宙ステーション・きぼう日本実験棟で、KIROBOはついに若田光一宇宙飛行士と会話します。中継映像がニュースになったことを覚えている人もいるでしょう。

その後もKIROBOは着実に宇宙での任務をこなし、2015年2月に無事地球に帰還しました。帰還後も、イベントなどでコミュニケーションロボットの可能性をアピールしています。

音声言語で会話できるロボットと暮す未来へ

KIROBO MINIは、KIROBOを座高10cm・重量200gに小型・軽量化したものです。

コミュニケーションに特化したロボットですが、KIROBOはただ単に人と会話ができることだけを目指したのではなく、人に“寄り添う”ことを目標に開発が進められてきました。

少子高齢化が止まらない日本、将来、単身化社会が進むことで、コミュニケーションレスの問題が深刻化することが予想されます。

ロボットと人間のインターフェースを活用することで、問題解決の方向性を見出せないだろうか、というビジョンで進められたプロジェクトの中で生まれたのがKIROBOです。

きぼうロボットプロジェクト
参考:「きぼうロボットプロジェクト」公式サイト


宇宙ステーションの中という限られた空間で、宇宙飛行士の話し相手をするなら問題ありませんが、日常生活の中で、いつも人が身近に置く寄り添いロボットにするなら、身長34cmのKIROBOはちょっと半端な大きさです。

そこで、手の平サイズにコンパクト化したのがKIROBO MINIなのです。

日本のロボットブームの変遷

サービスロボットが生活の中にたくさんいる社会へ

80年代、つくば万博の頃、産業用のロボットが大きく発展・普及し、

「ロボットブーム第1の波」

といわれました。

90年代、ホンダが二足歩行のロボットの開発を飛躍させ、やがて人型ロボット「ASIMO(アシモ)」が生まれます。


ソニーからは愛玩用ペットロボット「AIBO(アイボ)」が発売されます。


2000年代にかけて、産業用だけでなく、サービス分野でのロボットの活用の研究が本格的に取り組まれる素地ができました。この頃は

「第2の波」

です。

21世紀に入り、IT関連の技術が大きく進むに従い、IT機器搭載の一般機械がいくつも開発されたことで、ようやくサービス分野でのロボットの需要も徐々に伸び始めます。

自動で動くロボットシステム内臓の機器(ロボテク)の幅も広がり、掃除ロボット(ルンバなど)の販売・ヒットにより、一般家庭にもロボットの進出が始まりました。

この流れは今後加速すると予測され、2020年代には、ロボテク製品を含めたサービス用ロボットが、産業用ロボットの生産より大きく上回っていくと考えられています。

作業代行機械から、寄り添う友だちへ

第1の波の時代、ロボットというのは、人間の生活を便利で楽にするために、作業を

  • より効率的に
  • 低コストで
  • 早く
  • 正確に

行う方向で開発が進んでいました。

しかし、第2の波を代表するアシモもアイボもルンバも、実は案外手間がかかります。

アシモにプログラムを組み込むより、人が接客する人件費のほうがずっと安くつきます。

アイボは、しつけたり遊んだりメンテナンスしたり、まさにペット並みに手がかかります。

ルンバを使うためには、充電ステーションを設置し、段差や障害物がないよう家の中をいつも整理整頓しておかないといけません。

人が自分でやるよりお金がかかり、面倒くさくなったにも関わらず、手間のかかるお世話が必要なロボットたちに、人間は愛着を感じ、心を癒されるようになりました。

人は、機械に効率や正確さだけでなく、

不確定要素のある反応=人間味

をも求めるようになってきたのです。

今のPCやスマホやタブレットのほとんどは音声認識で入力できます。が、街なかでも家でも、しゃべって入力する人は案外少ないです。が、ルンバに話しかける人は意外といます。アシモやアイボには音声言語で話しかけるのが自然です。

人は四角くて動かない箱には話しかけませんが、自分で動いて考えて反応してくれるもの、ましてやそれが人や動物の形をしていると、用もないのに言葉をかけるようになります。

そして、やってきた人型コミュニケーションロボットの開発花盛りの時。この“人のように会話できるロボット”ブームが高まる今は

「第3の波」

といえましょう。

コミュニケーションに枯渇する時代のロボットの役割

ITが音声言語での対面コミュニケーションを退化させた?

IT端末とコミュニケーションアプリの発達は、現代希薄になってきたといわれていた人間関係の繋がりを新しい形で発展させた面がありました。

SNSで何十人・何百人もの友だちと繋がり、日々のちょっとした出来事をつぶやき合うネット内コミュニティで多くの時間を過ごす人が大勢います。会社の人と仕事で話す以外の会話が全くない日を送る、単身孤独なサラリーマン像など、今や過去のものです。

一方で、四六時中スマホを見ていないと時間の過ごしようがない「スマホ依存症」のような人も少なくありません。気付けば、私たちの周りは、リアルに誰かと一緒に過ごしている時間でさえ、互いに会話することなく、それぞれがスマホいじりに没頭している人たちの姿だらけになっています。

対面での音声会話というコミュニケーションは、社会としても個人レベルでも退化したと、いえなくはないでしょう。

ネットの中で築く人間関係の虚像

SNSでのコミュニケーションは、ほぼ「文字だけの会話」で進みます。

文字だけの会話は、送り手と受け手の意図がすれ違いがちです。また、面と向かってコミュニケーションする時は当たり前にやっている「相手を傷つけないような言い方に配慮すること」が、できなくなってしまう傾向があります。

思い込みや誤解、トラブルが後を絶たず、匿名で書きこめるようなツールの中では、しばしば炎上も引き起こします。

SNSの中だけで、本当に気持ちを伝え合ったり、他者との信頼を築いていくのは、実はとても難しいことです。文章力と相手の気持ちを思いやる想像力が思いの外必要です。

日本では、国語の授業で、自分の気持ちを相手に受け入れてもらいやすいように表現する文章作成スキルも、相手の言葉にひっかかりを感じた場合の建設的対処などのコミュニケーション方法も、教えてくれません。

手紙など書く習慣もなかった人が、ネットの中で人間関係を構築するのに、一度も不快な経験をしないできた人は少ないです。

中には失敗を恐れて当たり障りのない会話に終始し、既読スルーしないように気を配り続けるうち、SNS自体を負担に感じる人も出てきます。

ネットの繋がりは膨らんでも、コミュニケーションの充実感は乏しいものなのかもしれません。

相手をちゃんと見ながら話しかける感覚の大切さを思い出そう

相手の声を聞いて、表情や態度を見て、いろんなサインをくみ取りながら、音声言語をやり取りする会話は、文字だけの会話より安心感や信頼感を高めやすく、喧嘩しても仲直りしやすいです。

実際の生活をする上で必要な社会性や、対人関係を良好に築くコミュニケーションスキルを身に付けるためにも、リアルな対面会話は大事な体験になります。

IT技術の発達がもたらした「スマホ依存症」は、対面時にかわすはずだった会話の機会を奪い、結果的に人々のコミュニケーション力そのものを総合的に退化させているのかもしれません。

コミュニケーションロボットの会話スキルは、まだ完全に普通の人間と会話するレベルにまでは達していません。それでも、日常の人間らしい会話として不自然じゃない受け答えが十分できるところまではきています。

コミュニケーションロボットと対面会話することで、コミュニケーション能力を鍛えられるかどうか、またロボットを話し相手として人の代わりにすることがいいことかどうかはわかりません。が、人々がスマホの中の会話を取り繕うことに夢中になって忘れかけていた

“相手を見ながら言葉を交わすことの、楽しさや幸せ”

をコミュニケーションロボットとのふれあいの中で思い出せるのであれば、それはロボットがもたらしてくれる明るい未来のひとつの成果となる気がします。

ロボットが人に寄り添う未来

KIROBOが宇宙にいる間に、複数の企業が、独自のテクノロジーを屈指してコミュニケーションロボットの開発・販売に参入してきました。

Pepperを初めとして、既に量産販売が始まり、店舗や施設で活用されるロボットはあちこちで見られるようになり、成果もあげています。

今後、一般家庭や個人で所有するコミュニケーションロボットが普及するかどうかは、コンパクト化と低価格化にかかっていくと見られています。

KIROBOの開発に中心的に加わったロボ・ガレージ社長の高橋智隆さんは、

「いずれは人々がポケットに入るサイズのパートナーロボットを携帯する時代がくる」

と、予測しています。

日本人が長年漫画やSFで慣れ親しんできた、自己認識と自意識を持って、人間のように普通に考えて話せるロボットと、共に会話し生活する未来は、もうすぐそこまできています。

KIROBO MINIの今後に期待しましょう。

まさケロンのひとこと

今は「携帯電話」が当たり前だけど、いずれは「携帯ロボット」が当たり前になるのかも。ロボットに電話機能もつけちゃえば携帯電話はいらないもんね。

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。